抜歯後、切開した傷口がふさがらずに歯槽骨(しそうこつ)がむき出しになる状態を「ドライソケット」と言います。「抜歯後2~3日で痛みが出てきた」「ズキズキと激しく痛む」「食べるときに歯が痛む」などの症状に当てはまる方は、ドライソケットの可能性が高いでしょう。そのまま放置していると、さらに痛みが悪化し、骨の炎症を起こす可能性もあります。最悪な状態にならないためには、早めに適切な処置を施しておかなければなりません。そこで、本記事では、ドライソケットの基礎知識や症状・原因・治療法・予防法などについて説明します。
この記事を読むことで、ドライソケットを改善するために必要な知識を身につけることができます。痛みで悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
1.ドライソケットの基礎知識
正しく改善するためには、ドライソケットの知識を深めることが大切です。それでは、定義やよくあるケースについて説明します。
1-1.定義
ドライソケットとは、抜歯後に歯茎(はぐき)が形成されないまま穴が開いた状態のことです。親知らずなどを抜歯した後に発生するもので、穴がふさがらずにむき出しの状態になってしまいます。一般的に、抜歯後は麻酔が切れると痛みを感じるでしょう。少しずつ痛みは治まりますが、痛みが一向に引かない場合は、ドライソケットの可能性があります。ドライソケットの状態になると、穴に入りこんだ食べものが骨に当たり、激しい痛みを伴うでしょう。
1-2.よくあるケース
先ほども説明したように、親知らずを抜いた後にドライソケットが発生するケースがほとんどです。抜歯をした人の約2~4%の割合で起こると言われており、特に、下顎の親知らずでは、20%近い割合でドライソケットが発生します。なぜなら、下顎の骨のほうが上顎よりも硬く、密度が高いからです。そのため、下顎の親知らずを抜くのは大変なことが多く、細菌による感染が起こりやすい傾向があります。
2.ドライソケットの症状
ドライソケットの主な症状や痛みについて説明します。
2-1.主な症状
ドライソケットの主な症状は、抜歯後に痛みが続くことです。抜歯をした直後から、ある程度時間が経過するまで痛みは感じるでしょう。しかし、時間が経過しても痛みが引かない場合は、高確率でドライソケットになっている可能性があります。ドライソケットに食べものが入りこむと、歯槽骨(しそうこつ)が細菌感染を起こして炎症に発展するのです。その結果、急性歯槽骨炎になるでしょう。
2-2.痛みについて
ドライソケットの症状は、抜歯後2~3日経過してから痛みが始まる点が特徴です。2週間以上痛みが続くことがほとんどですが、中には1か月以上続いたという人もいます。抜歯した部分がズキズキと痛み、あらゆる刺激に敏感になるでしょう。食事や飲みものを飲むとき、アゴを動かすときも痛みが伴うおそれがあります。
3.ドライソケットの原因
それでは、ドライソケットの原因にはどのようなものがあるのでしょうか。改善するためには、原因をきちんと突き止めておかなければなりません。
3-1.主な原因
ドライソケットの主な原因は、大きく分けて2つあります。1つ目は、うがいのしすぎです。口腔(こうくう)環境を清潔にするためにうがいは必要ですが、やりすぎは逆効果となります。うがいのしすぎによって、出血を促しかさぶたを作りにくくしてしまうでしょう。ドライソケットは、抜歯後にできた穴の中に血餅(けっぺい)がたまらないことで発生するものです。血餅とは、血液が凝固してできる餅状の塊を指しています。親知らずの抜歯後は出血が多いため、うがいを頻繁にする方が多いでしょう。しかし、頻繁にしたり、強いうがいをしたりすると、血餅が流れてしまうので注意してください。
そして、2つ目は、舌で患部をいじってしまうことです。抜歯後にできた穴が気になり、自然と舌や指で触ってしまうでしょう。触れることで血餅が剥(は)がれ、細菌感染が起こりやすくなります。さらに、アゴの骨に炎症が起きて激痛を伴うこともあるので注意してくださいね。
3-2.こんな人・こんなことに注意!
普段から、喫煙や飲酒をしている方は注意が必要です。喫煙は血流を悪くする作用があり、タバコに含まれる成分が血管を収縮させます。歯茎(はぐき)に血液が行き届かなくなり、ドロドロな状態になるのです。その結果、抜歯後の出血量が足りずに、血餅ができずドライソケットが発生します。
さらに、抜歯の当日にお酒を飲んでしまうと、血流が良くなり出血が止まりにくくなるでしょう。血餅はできますが、口の中の不快感が強くなり、うがいのしすぎにつながります。抜歯前後は、お酒を控えてくださいね。
4.ドライソケットの影響について
ドライソケットの放置の危険性や注意点について説明します。
4-1.放置するとどうなるか
ドライソケットを放置すると、痛みが増すばかりです。激しい痛みを伴い、日常生活にまで支障をきたすことになるでしょう。また、アゴの骨が露出した状態になるため、細菌感染にあいやすくなります。細菌感染をすると炎症を起こし、最悪な場合は骨を削り取らなければなりません。入院が必要なので、費用もその分かかるでしょう。ただし、骨を削るのはまれなケースです。
さらに、感染や炎症の発生によって、歯茎の状態も悪くなります。ドライソケットをキレイにふさぐためには、土台となる歯茎の状態が良くなければなりません。歯茎の状態が悪くなると、その後の処置にも影響するのです。
4-2.注意点
「仕事が忙しいから歯医者へ行く時間がない」と、治療が遅くなれば状態が悪化します。入院が必要になるケースもあるため、できるだけ早めに治療を始めたほうが治療内容も軽くなるのです。最後に泣くのは自分なので、異変を感じたらすぐに受診してください。
また、ドライソケットがどのような状態になっているのか、指を口の中に入れて触らないように注意しましょう。指についていた細菌が、そのままドライソケットに侵入するおそれがあります。手や舌で触らずに、診察を受けることが大切ですよ。
5.ドライソケットの治療・予防法
どうしても痛みが我慢できないときは、応急処置で抑えることができます。しかし、間違った応急処置をすれば、痛みが悪化するので要注意です。ここでは、正しい応急処置や病院へ行くべき症状・検査と治療方法・注意点・予防法について説明します。
5-1.応急処置
ドライソケットの痛みが出てきたときは、安静にすることが1番です。痛みが出ているにもかかわらず、激しく運動をすれば血餅が剥がれ、再び出血する可能性があります。運動時は、舌の根元部分に唾液を集めようとする働きが活性化し、口腔内に強い圧がかかるのです。強い圧は血餅を剥がしてしまうので必ず安静にしてください。
また、一時的な処置として、頭痛薬などの鎮痛剤を服用するのも方法の1つです。あくまでも一時的な痛み止めとなるため、服用した後はきちんと病院で検査を受けましょう。
ほかにも、患部を冷やしタオルやハンカチで包んだ保冷剤で冷やすのも有効です。体が温まりすぎると血流が活性化し、痛みにつながることもあります。
5-2.病院へ行くべき症状
抜歯した後、痛みが長く続くようであればすぐに病院へ行ってください。特に、1~2週間以上続く場合は早急の対処が必要です。また、ズキズキとした痛み・抜歯後に痛みが強くなる・染みるような痛みなども病院へ行くべき症状となります。おそらく、抜歯後に担当医師から、「痛みが強くなってきたらすぐに連絡してください」と言われる人も多いのではないでしょうか。費用がかかるから、と放置せずに、担当医師へ連絡してくださいね。状態が悪くなるほど、治療費もかさみます。
5-3.検査方法
検査方法は、視診が基本です。抜歯の箇所を直接目で確認して、どのような状態になっているのかチェックします。その際は、歯茎が炎症を起こしていないか、骨の部分にまで影響が出ていないかなど細部まで確認するでしょう。また、レントゲン撮影やCTなどで、目で見えない部分の状態も確認します。骨に影響が出ている場合は、手術が必要になる場合もあるため歯茎の部分もきちんと把握しておかなければなりません。歯医者を選ぶ場合は、検査をきちんと行い、丁寧に説明してくれるところを選んでくださいね。
5-4.治療方法
ドライソケットの治療方法は、消毒・鎮痛剤・抗生剤の3つが一般的です。基本的に、痛み止めを飲み安静にすごしながら、自然治癒力を高めていきます。自然治癒を待つ方法がドライソケットの治療法です。歯医者では、痛みをやわらげることを目的として、処置を行うことが多いでしょう。
軽度のドライソケットであれば、消毒処置を行いながら様子を見ます。自然治癒するまで痛みは続きますが、時間とともに傷が回復して、穴がふさがるでしょう。
また、消毒処置と併用して、鎮痛剤と炎症を抑える抗生剤を投与します。痛みの症状がなくなるまで投薬は続けなければなりません。
自然治癒の経過が悪い場合は、高周波治療器である「ジアテルミー」を用いて、治癒の促進や骨の再生を促す場合もあります。そのときの口腔環境や、ドライソケットの進行具合によって治療法が大きく異なるのです。
5-5.注意点
ドライソケットを順調に改善するためには、日ごろの生活にも注意しておかなければなりません。歯科での専門的な治療はもちろんのこと、普段から飲酒や喫煙を控えめにするなどの努力が必要です。刺激物や甘いものも控えたほうが良いでしょう。また、ドライソケットの進行を悪化させる、うがいのしすぎや、舌で触ることもNGです。歯磨きにかんしては、担当医師に相談して行ってください。
5-6.予防法について
ドライソケットの予防は、自分でできることと歯科が行うことの2つが大切なポイントです。それぞれの内容について、以下にピックアップしてみました。
<自分でできる予防>
- 抜歯前は口の中を清潔にする
- 生理中の抜歯は避ける
- 抜歯後は、できるだけうがいをしない
- 激しい運動や飲酒・喫煙を避ける
- 抜歯後の30分間はしっかりガーゼを噛(か)む
- 抜歯部分を手や舌で触らない
- 栄養バランスの良い食事を心がけ、抵抗力をつける
<歯科が行う予防>
- 麻酔を過剰に使用しない
- 適切な投薬を行う
- 抜歯の術中、できるだけ骨や歯を削ったり傷つけたりしない
- 全身状態や内服薬をきちんと確認する
- 抜歯後の注意点にかんする指導を徹底する
親知らずの抜歯にかんする診療も行っている「静岡歯科」では、専門分野の経歴がある歯科医師が担当します。ぜひ相談してみてはいかがでしょうか。
6.ドライソケットにかんしてよくある質問
ドライソケットにかんしてよくある質問を5つピックアップしてみました。
6-1.男性よりも女性のほうがリスクが高いって本当か?
ドライソケットは男女問わずに発生するものですが、男性よりも女性のほうがリスクが高いと言われています。なぜなら、女性特有の生理と関係しているからです。生理中はホルモンバランスが乱れ、抵抗力や免疫力が落ちています。そのため、骨の再生能力が落ち細菌感染が起こりやすくなるのです。女性の場合は、生理中の抜歯を避けてください。
6-2.歯科の選び方が知りたい
歯科の腕によって、ドライソケットを未然に防ぐことができます。安心して施術が受けられる歯科を選ぶために、以下のポイントに注目すると良いでしょう。
- 丁寧な対応で細かく説明してくれる
- 院内の雰囲気が良くキレイな施設
- 予約が取りやすい
- 親知らずの抜歯など実績がある
- 口コミが評判が良い
6-3.危ない応急処置とは?
自分でガーゼに市販薬を塗ってドライソケットに入れるという方法を聞きますが、これは誤った応急処置です。歯科で処置する場合は、その人の症状に適した塗り薬を塗ったガーゼをドライソケットに入れます。市販薬では、抗生剤として有効か、ドライソケットの状態に適しているのか、個人では判断できません。不衛生なものを使えば炎症を起こす可能性もあるので気をつけてくださいね。
6-4.最新の予防法が知りたい
医療技術の発達により、ドライソケットの最新の予防法が次々と登場しています。たとえば、ピエゾサージェリーと呼ばれる方法は、三次元超音波振動装置を使って超音波を当てて歯を骨から少しずつ浮かせることが可能です。組織へのダメージが最小限に抑えられるため、ドライソケットのリスクが減るとされています。
6-5.どのくらいで治るのか?
ドライソケットはすぐに改善できるものではありません。消毒処置でも何回か通院が必要になるため、数か月はかかるでしょう。状態が悪化しているドライソケットほど、治療期間も延びます。
まとめ
いかがでしたか? ドライソケットは、親知らずの抜歯後に穴がふさがらない状態のことです。血餅でふさがなければなりませんが、何かしらの原因で血餅ができなかったり、すぐに取れたりしてしまいます。主な原因としては、うがいのしすぎや舌で触るなどの日常生活が関係しているでしょう。ドライソケットを未然に防ぐためにできることや、正しい応急処置など基礎知識を身につけておけば、スムーズに改善できます。